Key Takeaways
  • 個人ブログが「オワコン」化している本質は、AI要約・ゼロクリック検索などで流入と収益を奪うプラットフォーム側の“構造的搾取”にある
  • 検索結果やAI学習に無断利用されることで記事の価値と帰属が曖昧になり、書き手は巨大エコシステムの“養分”として扱われている
  • 生き残るにはSEO依存を捨て、自前ドメイン+ニュースレター/コミュニティで読者と直接・双方向に関係を築き、多チャネルかつ直接課金型へ舵を切るべき

朝、いつものようにパソコンの電源を入れる。キーボードから立ち上がる微かな温もり。モニターが青白い光を放ち、画面が徐々に明るくなる。指先でタイプした文字が、黒い背景に白く浮かび上がる。「ブログアクセス」を確認する。

数字が出てくる。昨日よりも、先週よりも、先月よりも小さな数字。まるで引き潮のように、少しずつ、でも確実に引いていく波のように。

「個人ブログはもう終わりなんだ」

誰かがそうつぶやいたのを、SNSのタイムラインで見かけたのはいつだったろう。心の奥でずっと感じていた違和感に、ようやく言葉が与えられた瞬間だった。

京寺美里

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消えゆく足跡:単なる媒体の衰退ではない

問題はブログという形式ではなく、「検索エンジン・巨大プラットフォーム中心の情報流通モデル」そのものが変質し、個人の価値が損なわれていること。

夕暮れ時、窓辺に座って古いブログの記事を読み返していた。かつては毎日のように訪れてくれた読者たちの姿は、霧のように薄くなっていく。検索からの流入は細い糸のように弱々しく、コメント欄は静まり返っている。

「時代に取り残されたのかな」

そんな風に思うこともある。でも、何かが違う。これは単に古い道具が新しいものに置き換わる、そんな単純な話ではないような気がする。

ブログという媒体が古くなったのではない。その背後にある巨大な構造が変わってしまったのだ。「検索エンジン・巨大プラットフォーム中央集権型情報流通モデル」と呼ばれる、私たちが長年慣れ親しんできたインターネットの情報の流れ方そのものが、静かに、しかし確実に変質している。

私たちの立ち位置が変わってしまった。それは砂時計の中の砂粒が、上の窪みから下の窪みへと落ちていくように。一粒一粒の砂は同じなのに、その置かれる場所が変わってしまった。

奪われる言葉の行方:価値毀損プロセスの実態

AI検索(AIO)によるゼロクリック化、AI学習データとしての無断利用(コンテンツ搾取)、プラットフォームによるユーザー囲い込みにより、個人が生み出す価値が正当に還元されず、吸い上げられている。

朝のコーヒーの香りに包まれながら、スマホの検索窓に質問を打ち込む。すると、AIがすぐに回答をくれる。便利だなと思う反面、どこか寂しさも感じる。かつては、こんな質問に答えてくれたのは、誰かの心のこもったブログ記事だったのに。

GoogleやBingが導入を進める「AI Overviews(AIO)やGenerative Engine Optimization(GEO)1」が、検索の世界を静かに変えている。カチッとボタンを押し、質問を入力すると、すぐに画面上に答えが現れる。でも、その下にある青い文字のリンクはもう誰も辿らない。

これは「ゼロクリック化」と呼ばれる現象。かつてのように検索結果からブログへと人々が訪れることはなくなった。クリックという小さな音が鳴らない世界。それは、ノックの返事がない部屋のドアを前にして立ち尽くすような、そんな感覚。

書いた言葉が宙に浮き、やがて大きな流れに飲み込まれていく。私の言葉は、いつの間にか私のものではなくなっていく。まるで雨粒が川に落ちて、その姿を失うように。

コンテンツコプティング2」という言葉を知ったのは最近だ。私たちのブログ記事が、AIモデルの学習データとして、あるいはAIが回答を生成するための素材として利用される。けれど、その引用元が明示されない。私たちの書いた言葉は、大きな企業のサーバーの中で、名前も失い、文脈も失い、ただのデータとして扱われる。

春の日差しに雪解け水が吸い取られていくような、静かで緩やかな、でも確実な変化。これが「価値毀損プロセス」の正体だ。個人が生み出した価値(情報、コンテンツ)が正当に評価・還元されず、プラットフォームによって一方的に吸い上げられている。

大きな企業は、ユーザーを自社のサービス内にできるだけ長く留まらせることを望む。滞留時間の最大化3。彼らにとって、私たちのブログへユーザーが流出することは望ましくない。だから、閉じ込めるための壁はどんどん高くなっていく。

この構造的な変化の中で、私たち個人の発信者は、プラットフォームという巨大なエコシステムを維持・強化するための「養分」のような存在になりつつある。何かが根本的に間違っている。心の奥がざわつく。

AIのロボットをブロックするメディアも増えてきたそうです▶︎ 生成AIの「URLを読む処理」について考えてみる。

温もりを求めて:発信パラダイムの転換

もはや一方的な情報発信ではなく、読者との合意に基づき、価値(情報、体験、所属意識など)を交換する「価値交換エコシステム」を設計・運営する発想へ転換すべき。

パソコンの前に座り、画面を見つめる私の横顔が窓ガラスに映る。これからどうしたらいいのだろう。ただ流れに身を任せるだけでいいのか。心の奥には、まだ誰かに届けたい言葉があるのに。

温かいコーヒーカップを両手で包み込むように、言葉も温かさを失わないように包み込める場所が必要だ。それは、大きな潮流に飲み込まれない、小さくても確かな居場所。

情報を一方的に提供する時代は終わった。これからは「価値交換」の時代だ。特定の価値(情報、体験、所属意識)を、特定の相手(読者、視聴者、コミュニティメンバー)との間で、相互の合意に基づき交換する。そんなエコシステムを、自分の手で作り上げていく必要がある。

この新しいエコシステムは、「双方向性」「パーミッション」「所有権」「体験価値」「コミュニティ自立性」という要素で形作られる。単一のブログという「場」に固執するのではなく、これらの要素を実現する複数の仕組みを組み合わせる。それは宝石の異なる面が光を反射するように、それぞれが違った形で価値を生み出す。

メールの通知音が鳴る。購読してくれている人からの返信だ。「ブログのおかげで問題が解決しました」という一行が、胸に染みる。この一行のために書いているのかもしれない。

新しい道を探して:戦略の再構築

具体的な戦略として、①独自ドメイン+メルマガを基盤に、②SNS・動画・音声・コミュニティ等を機能分散させ、③体験価値・参加型コンテンツへ移行し、④広告依存から脱却して直接課金やWeb3技術を活用し、⑤PV至上主義から関係性の質・深さを重視するKPIへ転換する。

雨上がりの空に、かすかな虹が見える。光の粒が集まって、美しい色のグラデーションを描いている。それぞれが違う色を持ちながら、一つの風景を作り出す。個人の発信も、そんな風であるべきだ。単一の媒体ではなく、複数のチャネルを組み合わせることで、より豊かな表現が可能になる。

まず必要なのは、揺るぎない本拠地の確立。私はドメインを購入した。小さな土地を手に入れたような安心感。これが私の言葉の家。プラットフォームのアルゴリズムや規約が変わっても、ここだけは変わらない。

パーソナルドメインの上に、メールマガジンを構築する4。キーボードを打つ指先の律動に合わせて、言葉が紡がれていく。ニュースレターは、AIに要約されにくく、読者との深い関係性を築くための最も親密なツール。

ブログ自体もまだ残しておく。でも、その役割は変わる。SEO依存から完全に脱却し、「コンテンツの保管庫、ポートフォリオ、各種チャネルへのポータル5」として機能させる。検索からの訪問者を期待するのではなく、指名検索や他チャネルからの誘導を重視する。それは古い家具を新しい配置で使うような、懐かしさと新鮮さが同居する感覚。

SNS6の通知音が鳴る度に、少し緊張する。それは次々と変わる街の風景のようだ。短い言葉、速報、議論の呼び水、コミュニティへの誘導として使う。アルゴリズムとの駆け引きは、時に疲れる。でも、多くの人に出会える場所でもある。

動画カメラの赤いランプが点灯する。YouTubeやTikTok7での発信も始めた。画面越しに届く自分の声や表情は、不思議な親密さを生み出す。ライブ配信では、リアルタイムにコメントが流れてくる。それは小川のせせらぎのように、途切れることなく続く対話の流れ。

イヤホンから流れるポッドキャストの声に耳を傾ける。音声コンテンツ8は、聴き手との間に特別な関係を築く。声のトーンや間(ま)が、言葉以上のものを伝える。ながら聴きされることも多いが、それはむしろ日常に溶け込める強みでもある。

Discordのチャンネルで交わされる会話には温かさがある。特定のテーマに関心を持つ人々が集まるクローズドなコミュニティ9。そこでは、メンバー同士の相互作用が自律的な価値を生み出していく。限定情報を共有したり、オンラインイベントを開催したり。画面越しでも、確かな繋がりを感じる場所。

変わりゆく価値の形:コンテンツと収益の再設計

月明かりが窓から差し込み、部屋に柔らかな影を作る。画面に向かいながら、これからの発信の形を考える。

単なるテキストや動画ではなく、インタラクティブな要素10を取り入れたい。ワークシートやクイズ、Q&A、共同制作プロジェクトなど。読者や視聴者が受動的な消費者から能動的な参加者になれる仕組み。それは軽やかな風のように、双方向に行き交う対話。

AIも共創11のパートナーになり得る。敵視するのではなく、コンテンツ生成の補助やパーソナライズ、リアルタイム補足情報の提供などに活用する。それは新しい道具を手に入れた時の、あの高揚感に似ている。

広告バナーが画面隅で点滅している。けれど、そろそろ別の道を探す時かもしれない。広告モデルへの依存をゼロに近づけ、有料ニュースレター、メンバーシップ、コンテンツ販売、コンサルティングなど、価値を感じてくれる支持者からの直接支援に移行していく12

Web3やブロックチェーンという言葉にも、少しずつ慣れてきた。コンテンツNFTで所有権を証明13したり、トークンエコノミーでコミュニティへの貢献を可視化14したり。まだ実験的な段階だけれど、いつか当たり前になる日が来るかもしれない。それは未知の果実を口にする時のような、ドキドキとワクワクが混ざり合う感覚。

分散型ストレージの仕組みも検討してみる。IPFS(InterPlanetary File System)15などを使えば、プラットフォームによる検閲や削除のリスクを避け、コンテンツの永続性を確保できる。それは重要な書類を頑丈な金庫に保管するような、安心感がある。

残したいもの、守りたいもの:自律分散型価値交換ネットワークの構築

「個人ブログの終わり」は中央集権プラットフォームによる搾取の限界を示す。未来は、発信者自身が中心となり、自律的な複数チャネルを組み合わせて読者と直接価値交換を行う「自律分散型ネットワーク」を構築することにある。

夜になった。部屋の灯りだけが、静かな闇の中で光っている。モニターの明かりに照らされた顔で、明日の記事を書く。

PVやインプレッションといった数字に一喜一憂する日々から、メール開封率、コミュニティ参加率、有料会員の継続率など、関係性の質を示す指標へと、意識を移していく。それは量から質への転換。浅く広い湖から、深く澄んだ井戸への移行。

単一プラットフォーム、単一収益源への依存は危険16だと学んだ。常に複数の選択肢を持ち、状況に応じて柔軟に戦略を変えられるようにしておく。それは複数の道を知っている旅人のような、安心感と自由さ。

「個人ブログはもう終わり」という現象は、中央集権型プラットフォームによる価値搾取構造の限界を示している。

これからの個人発信は、複数の自律的なチャネル(パーソナルドメイン、メールリスト、コミュニティ、Web3技術等)を組み合わせ、参加者との間で透明性の高い価値交換を行う「自律分散型ネットワーク」の構築へと向かう。

キーボードを打つ音が、静かな部屋に響く。カタカタという音が、拍子を刻むように規則正しく続く。それは小さな抵抗の音でもある。

ブログは終わったかもしれない。でも、言葉を紡ぐ行為は終わらない。

かつて日記を書いていた頃の、紙の感触とペンを走らせる音を思い出す。時代が変わっても、心を通わせたいという思いは変わらない。形を変えながらも、温かさを失わない言葉の居場所を、これからも探し続けていきたい。

大きな流れに抗うことはできなくても、小さな流れを作ることはできる。一人一人が、自分だけの水路を作り、やがてそれらが集まって新しい川になるように。

この記事を書き終えて、投稿ボタンを押す指に力を込める。明日も、誰かの心に届く言葉を紡ごう。そして、その言葉が川となって、また誰かの心に届くことを願って—

まとめ

  1. 「個人ブログの終わり」の本質は、媒体の衰退ではなく、巨大プラットフォームによる構造的な価値搾取です。AI検索やコンテンツ利用により、個人が生み出す価値が正当に還元されず、プラットフォームに吸い上げられています。
  2. この状況で生き残るには、プラットフォーム依存から脱却し、発想を転換する必要があります。目指すべきは、発信者自身がコントロールできる場(独自ドメイン、メルマガ等)を核とし、読者と直接的な関係性を築き、価値を交換するエコシステムの構築です。
  3. 広告収入への依存を減らし、直接支援モデルへ移行。PV数ではなく関係性の深さを重視することが、プラットフォームの支配を離れた未来の「自律分散型」な個人発信の鍵となります。

脚注

  1. AIO/GEOによるゼロクリック化:Googleなどが導入を進めるAI Overviews(AIO)やGenerative Engine Optimization(GEO)は、ユーザーが検索結果をクリックせずともAIが生成した回答を得られるようにする。これは単に「ブログへのトラフィックが減る」という話ではない。あなたの書いた渾身の記事が、AIによって要約され、情報源として「利用」されたにもかかわらず、読者があなたのサイトを訪れる機会そのものが奪われることを意味する。 ↩︎
  2. コンテンツコプティング(データ搾取):あなたの記事は、AIモデルの学習データとして、あるいはAIが回答を生成するための素材として利用される。しかし、多くの場合、その引用元が明示されなかったり、クリックに繋がらない形で表示されたりする。結果として、あなたは一次情報を提供したにも関わらず、その貢献に見合うだけの対価(トラフィック、認知向上、収益機会)を得られないという状況が常態化しつつある。 ↩︎
  3. プラットフォームによる囲い込み:検索エンジンやSNSといった巨大プラットフォームは、ユーザーを自社のサービス内にできるだけ長く留まらせることをビジネス戦略の中心に置いている(滞留時間の最大化)。外部サイトである個人ブログへのユーザー流出は、彼らにとっては望ましくないのだ。 ↩︎
  4. パーソナルドメイン + メールリスト:これが揺るぎない基盤となる。プラットフォームのアルゴリズムや規約変更から独立した、主権を持つコミュニケーションチャネルだ。ニュースレターは、AIに要約されにくく、深い関係性を築くための最重要ツール。エクスクルーシブなコンテンツ、思考の深化版を提供し、有料化による直接収益化を図る。 ↩︎
  5. ウェブサイト/ブログ(アーカイブ/ハブ機能):SEO依存から完全に脱却し、コンテンツの恒久的な保管庫、ポートフォリオ、各種チャネルへのポータル、信頼性の証明として機能させる。検索流入は期待せず、指名検索や他チャネルからの誘導で十分だ。 ↩︎
  6. SNS:短文、速報、議論の呼び水、コミュニティへの誘導。アルゴリズムハックと割り切り、消耗戦を覚悟する。 ↩︎
  7. 動画 (YouTube/TikTok等):高エンゲージメント、属人性強調。ライブ配信によるリアルタイム双方向性を重視。短尺と長尺のハイブリッド戦略を取る。 ↩︎
  8. 音声 (Podcast等):親密性の構築、ニッチな専門性を活かす。ながら聴き需要に対応し、「声」による信頼醸成を図る。文字起こしによる検索補助も効果的。 ↩︎
  9. クローズド/深化チャネル(コミュニティ):Discord/Slack/その他、特定テーマへの関心層を集約する。メンバー間の相互作用(UGC)を促進し、自律的な価値生成を目指す。限定情報、イベント、直接対話の場としても機能し、メンバーシップモデルとの親和性が高い。 ↩︎
  10. 脱・静的コンテンツ:単なるテキストや動画ではなく、インタラクティブ性を組み込む(ワークシート、投票、Q&A、共同制作プロジェクト)。読者/視聴者を受動的な消費者から能動的な参加者(アクター)へ転換させる。 ↩︎
  11. AIとの共創:AIを敵視するだけでなく、コンテンツ生成補助、パーソナライズ、リアルタイム補足(ライブ配信でのAIアシスタント)、参加者向けツールの提供等、協働するパートナーとして活用する視点を持つ。 ↩︎
  12. ダイレクトサポート:広告モデルへの依存を限りなくゼロに近づける。有料ニュースレター、メンバーシップ、コンテンツ販売、コンサルティング、商品販売など、価値を感じるコアな支持者からの直接支援を主軸とする。 ↩︎
  13. コンテンツNFT:所有権の証明、真正性の担保、二次流通市場の可能性を探る。限定コンテンツの新たな配布・収益化モデルとして活用。 ↩︎
  14. トークンエコノミー:コミュニティへの貢献度に応じたトークン付与によるインセンティブ設計。参加と貢献の可視化・報酬化を実現。 ↩︎
  15. 分散型ストレージ (IPFS等):プラットフォームによる検閲・削除リスクからの回避し、コンテンツの永続性を確保する。 ↩︎
  16. リスク分散:単一プラットフォーム、単一収益源への依存を徹底的に回避する。常に複数の選択肢を持ち、柔軟にピボットできる体制を維持する。 ↩︎