この「CCA LYRA」というイヤホンに心を惹かれたのは、まず、その佇まいでした。まるで、夏の終わりの海岸で見つけたガラス片のよう。
光を受けて、淡く、静かにまたたく。そんな、どこか儚げな美しさに、ふっと目を奪われたんです。
私がイヤホンに求めるものは、そんなに多くないのかもしれません。お腹に響きすぎるような、ブンブンいう低音は少し苦手。予算は、できればポケットマネーで買えるくらいの、3,000円くらいがいいな。そして、安っぽく見えない、できればささやかな彩りのあるデザイン。何より、大好きな音楽を、胸がすくような気持ちで聴きたい。
そんな私のわがままな願いを、そっと叶えてくれたのが、この「CCA LYRA」でした。
そして、この選択は、嬉しい驚きを連れてきてくれました。このイヤホンが奏でる音は、元気いっぱいなのに、どこか優しい響きを持っています。低音は、力強さとスピード感を持ちながら、弾むように軽やか。中音域は、ほどよく輪郭がはっきりしていて、それでいて澄んでいる。高音域は、どこまでもクリアで、きらめきを感じさせる。広がる音の空間と、それぞれの音が混ざり合わない心地よさもあって、音楽に身を委ねる時間が、前よりもっと好きになりました。
KZというメーカーの系譜にありながら、すべてが「ちょうどいい」ところに収まっている。でもそれは、器用貧乏っていうのとは少し違う。なんだろう、少しだけ、昔の音を思い出すような。iPod Shaffleで聴いていた頃の、あの少し甘い響きに似ているのかもしれない。そんな、特別な懐かしさを感じさせてくれるイヤホンです。
良いところ、少し気になるところ
- バンドが駆け抜けていく、あのスピード感が伝わってくる
- ケーブルが、くったりと柔らかくて、扱いやすい
- いろんな音楽と、仲良くなれる感じがする
- 本体の、耳に当たる部分の小さな突起が、時々気になるかな
- イヤーピースが、もう少しだけ耳の奥まで届いてくれたら嬉しいかも
「CCA LYRA」について
- ブランド:CCA
- モデル名:LYRA
- 構成:10mm デュアルマグネティック・ダイナミックドライバー
- インピーダンス:28Ω
- 再生周波数:20Hz – 40kHz
- 感度:113.18dB±3dB
- ピンタイプ:0.75mm 2pin
「CCA LYRA」と、いろんな音楽
Taylor Swift / Anti-Hero
ポップスをこのイヤホンで聴くと、まず感じるのは、高音域の透き通るような明るさ。まるで薄いヴェールを一枚はいだみたいに、声がすっと前に出てくる。テイラー・スウィフトのような、高く澄んだ声の魅力が、いっそう際立つ気がします。もちろん男性ボーカルも心地よいけれど、特に女性ボーカルの持つ繊細なニュアンスを、丁寧に拾い上げてくれる。声が、とてもクリアに、耳に優しく響きます。
他のイヤホンだと時々感じる、あのキンとした痛みが、ここでは心地よい風のように変わるんです。無理に飾り立てるのではなく、素直に、ありのままに鳴っている。だから、いつまでも聴いていたくなる。心が洗われるような、そんな感覚。
GOOD BYE APRIL / BRAND NEW MEMORY
このイヤホンの中音域の良さが、素直に出るジャンルかもしれません。
「カチッとした輪郭と、キラキラした響きが、ちょうどいいバランスで」という感じ。曲の中に散りばめられた、低い音から高い音までが、混ざり合わずに、それぞれの粒がちゃんと見える。それがとても聴きやすくて、心地いい。
そして、ボーカルがとても近くに感じるんです。すぐそばで歌ってくれているみたいに。温かいのに、クリア。清々しい、という言葉が似合う聴きごたえです。
そういえば、渡辺美里さんの『10 years』を聴いたときは、不意に胸が締め付けられるような感覚があって。どうしてだろう。安価なイヤホンなのに、忘れかけていた何かを、そっと掬い上げてくれるような、そんな音がするんです。少し泣きそうになりました。
STAN GETZ & CHARLIE BYRD / Desafinado
テナーサックスの高い音が、ほんの少しだけ、空気を震わせるように耳に届く。時に、それが少しだけ刺激的に感じることもあるけれど、全体としては、まるで古い映画のワンシーンみたい。軽やかで、どこか切ない。目の前に、小さなステージがふわりと広がる。トライアングルの澄んだ音が、頭の中でチリン、と鳴るのがわかるくらいクリアです。
JAZZといっても色々ありますが、どちらかというと、明るくて軽快な曲調に似合う気がします。静かで、深く沈み込むような…例えばECMレーベルみたいな雰囲気の曲は、少し違う顔を見せるかもしれませんね。
VTSS / Boiler Room x Dekmantel Festival 2022
テクノの持つスピード感が、気持ちよく駆け抜けていく。中音域のきらめきと、高音域の真っ直ぐな明るさが、曲の持つハッピーなムードを、さらに色鮮やかにしてくれるみたい。ただ、どちらかといえば、ユーロビートやEDMのような、もっとキラキラした音色のほうが、このイヤホンの得意な場所なのかもしれません。
さいごに
このイヤホンは、元気いっぱいでありながら、どこか温かみのある、ニュートラルな音がします。低音域は、タイトでまっすぐ。力強さとスピード感が、ちょうどよく同居している感じ。重低音も、しっかりと感じられるけれど、いわゆるドンシャリとは違う、キレのある音。中音域は、適度な解像感で、全体にすっきりとした印象。ボーカルと楽器の音が、自然に離れて聴こえるから、心地よく音楽に浸れます。音の広がりも、窮屈な感じはなくて、自然体。それぞれの音がどこにあるのか、ちゃんと感じ取れる。高音域は、見通しがよくて、まっすぐ。曇りのない、明るい音色です。
これらすべてが組み合わさって、「CCA LYRA」だけの特別な響きが生まれているんだと思います。
この値段で、こんなにもバランス良く、いろんな音を描き出してくれるなんて。全体としては温かい音なのに、ちゃんと透明感もある。不思議な魅力です。
この後に出会った「ZSN Pro X」と比べると、LYRAの方がいろんな音楽を受け入れてくれる、懐の広さを感じます。もちろん、メタルコアやテクノの一部では、「ZSN Pro X」の方が「これだ!」と思わせてくれる瞬間もあるけれど。でも、普段使いで、いろんな曲と寄り添ってくれるのは、LYRAの方かもしれない。
…いや、でも、「ZSN Pro X」にも、やっぱり不思議な良さがあるんですよね。
KZの3,000円クラスのイヤホンって、なんだかそれぞれに物語があって、本当に面白いなと思います。このLYRAも、私の日常に、ささやかだけど、確かなきらめきを運んできてくれました。
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